ランナーのためのランニング障害SOS

まつだ整形外科クリニック

空気抵抗

2017年12月25日

こんにちは!橋や土手、田んぼなど開けた場所を走るのって気持ちいいですよね。

景色もいいし、遠くを見ながら走るので自然と上体が起きて安定した姿勢になる気もします(私だけでしょうか。笑)。

特にこの季節は空気が澄んでいて遠くまで見渡せます。



年末になってきましたが、寝ても覚めてもランニング漬けのランナーの皆さんの中には「初日の出ランを土手でしたい!」といったことを計画している人もいるでしょうか?

でもそういった場所だと風に強く当たるので筋肉には普段とは違った負荷がかかっていることもあります。

私も家の近くを走っていると田んぼだらけなので横からもろに風を受けることも多く、ランニング後に風が吹いてきた方とは逆のふくらはぎだけ筋肉痛になった、という経験があります。

効率よく筋力を付けることを考えると左右均等に負荷がかからないのはトレーニングとしてどうか、という気もします。

風に逆らうがあまり、妙なところに力が入り過ぎて痛めてしまうこともあるかもしれません。

今回はマラソンと風=空気の流れについて考えてみましょう。

ランナーとペースメーカー

ここで参考になる論文を1つ紹介します。工学院大学の伊藤教授が2006年に発表した論文です。

ここではマラソンの空力影響について「ペースメーカー」と「ランナー」の視点から実験しています。

個人的には普段あまり見ることのない工学系の論文なので面白い内容でした。

現代のマラソンは高速化が進んでいます。

現在の男子マラソン世界記録は2014年にケニアのデニス・キメット選手が出した2時間2分57秒です。

女子マラソンは2時間15分25秒で、2003年にポーラ・ラドクリフが記録を出して以降、10年以上も記録は破られていません。

女子マラソンの高速化はめざましく、世界記録は25年の間に約15分も短縮されています。

女子マラソンの高速化の要因の1つとして男子ペースメーカーが導入されたこともあると言われています。

男子ペースメーカーが先頭集団を引っ張ることで、先頭集団にいる選手が序盤から速いペースを保つことができるようになり、女子トップ選手のタイムが伸びたということがあるようです。

大会などでペースメーカーと併走した経験のある方はペースを守って走ることがどれだけ走りやすいか、よくわかると思います。

ここで紹介する論文ではペースメーカーの効果をもう1つの視点から検証しています。

空気抵抗の影響とは

実験では一人で走るときや数人で走るとき、さらには数人で走るときのいくつかのフォーメーションで空気抵抗の比較をしています。

シュミレーションの結果、ペースメーカーはやはり空力影響として大きな効果がある、とのことでした。

正面から弱い風を当ててその抵抗の値をみると、「ペースメーカー3人をランナーの前にした場合」が最も抵抗が少なく、このとき「単独走行の約7%と大幅な抗力軽減をもたらす」との結果が出ました。

2番目に抵抗が少なかったのは「3人直列併走の中央にランナーを位置した場合」とのことでした。ランナーの真横にペースメーカーがいると空気の巻きこみを多少なりとも受けて抵抗は強くなるようです。

この実験の場合はあくまでも空気の流れについてみていて、風ほどの強い流れでなくても速いスピードで走っているランナーの場合はペースメーカーが前にいることで空気の抵抗を受けにくくなると結論づけています。

また風が強く吹いている場合も、周りに人がいるかいないかはとても重要です。

実験の結果に沿って考えると、「1人~3人が風が向かってくる方向と垂直にいて、真横には人がいない」状態が良さそうです。

実際にこのポジション取りを意識する必要がどこまであるかはわかりません。

常にそのポジションを取ろうと考えながら走ると頭が余計なエネルギーを使ってしまいそうですね。

ただ、論文の中で伊藤教授は、実験で1番抵抗が少なかった、3人のペースメーカーが前にいるフォーメーションでフルマラソンを完走したとすると、「試算では2時間10分のペースのランナーが温存できるエネルギーを時間に換算すると4分程度にもなる」としています。

ここではとてつもなく速く走れるランナーで試算がされていますが、スピードの劣る私のようなランナーでも風が吹いている場合などは少なからずポジション取りの恩恵はありそうです。

おわりに

いかがだったでしょうか?

実際に大会などでタイム更新を狙っている方は、どこでどのように走るかは重要です。

筋肉の疲労によってフォームが崩れてくることでランニング障がいを引き起こすリスクも上がってくるので、障がい予防としても間接的に関わっているといえるかもしれませんね。

それでは2017年、今年もあと少しですが、1年を振り返りつつ元気にランニングを楽しんでください!

埼玉県熊谷市にあるまつだ整形外科クリニックの理学療法士、法貴がお届けしました。よいお年を。

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