ランナーのためのランニング障害SOS

まつだ整形外科クリニック

疲労骨折の要因と対策

2017年12月11日

こんにちは、埼玉県熊谷市にあるまつだ整形外科クリニックの理学療法士、法貴です。

みなさんはマラソンの練習をしていて痛みが残っているときまず何を考えますか?

よっぽどの痛みでなければ筋肉痛かな?と思うのが普通だと思います。

トレーニング後の筋肉痛であればわざわざ病院でみてもらう人は少ないでしょう。

ただ場合によっては深刻な状態のこともあります。



今回のテーマは「疲労骨折の要因と対策」です。

どのようなメカニズムで疲労骨折になるのでしょうか?

疲労骨折が起こるメカニズム

疲労骨折にならないようにする対策としては、どういった運動をするのがいいのでしょうか?

基本的な知識を知っておいて損はないと思うので、ここで簡単に紹介しましょう。

疲労骨折とは標準整形外科学(医学書院)で見てみると「健常な骨に通常は骨折を起こさない程度の負荷が繰り返し加わった場合に生じる骨折」とされています。

骨粗鬆症や長期透析患者など元々骨が弱い方も骨は折れやすいですが、これは疲労骨折とは区別されます。

なので、あくまでも「健康な人」がスポーツや仕事で何回も同じ場所にストレスが加わって骨が折れてしまうことを疲労骨折といいます。

詳しい説明・治療法については当院院長がブログに書いているのでご参照ください(ブログトップページ右下の「カテゴリー」から「下肢の疲労骨折」をクリックしてみてください)。

今回は疲労骨折の中でも発生頻度が多いとされている脛骨(すねの骨)の疲労骨折について、メカニズムを詳しくみてみましょう。

米デラウェア大学のClare博士が2006年にAmerican College of Sports Medicineに脛骨疲労骨折の運動学的な要因について発表しています。

Clare博士らはモーションキャプチャーシステム、床反力計、加速度計を用いて女性ランナーのランニングフォームと脛骨にかかるストレスについて解析しています。

地方の大会やランニングクラブで以前に疲労骨折を経験したランナーを探し、疲労骨折の経験がないグループと比較しました。

解析結果から、「疲労骨折群では健常群と比べ瞬間的・平均的なLoading rateと脛骨への衝撃が明らかに大きかった」と結論づけました。

Loading rate とは、接地時の単位時間あたりの床反力の大きさで、この値が大きいと衝撃吸収能の低下を示します。

Loading rateが増えることで脛骨への衝撃も強くなり、これが蓄積することで疲労骨折につながるということのようです。

要はランニングで足をついた瞬間の衝撃を少なくすること、衝撃をうまく吸収することが大切なようです。

この実験では2つのグループともリアフットストライク(後足部接地、踵接地)傾向のフォームをしていたので、フォームによる違いはない、としています。

接地時の衝撃を吸収するには

それではどうすることで接地時の衝撃吸収をすることができるのでしょうか?

この論文の目的はあくまでもどういったメカニズムで疲労骨折が起きているかを調べることで、その対策までは明確にはしていません。

原因も人によって様々なので一概には言えないのだと思います。

ただ、ここで出てきたような衝撃吸収能を上げる、ということについて考えるとヒントは出てきます。

論文の中でClear博士は「疲労骨折を防ぐためにはstiffnessがおそらく大切な要因」と言っています。
stiffnessは直訳すると剛性、硬さです。

関節の剛性が高いと足をついたときにガツンと衝撃がそのまま骨に伝わるので疲労骨折のリスクが上がる、ということのようです。

剛性は高すぎても低すぎても動きづらくなってくるので、弾むボールのようなうまく衝撃を吸収して反発力に変える適度な剛性が重要です。

これはどのように鍛えればいいのでしょうか。

例を挙げて考えてみましょう。

初めてアイススケートをするとき、リンクの上に立つとどうなるでしょうか。

足から体、腕まで全身をがちがちに緊張させて固めると思います。

つるつる滑る氷の上でスケートシューズで立つのでバランスが取れないためです。

これが全身のstiffnessが上がった状態だと言えます。

だんだんと練習しているとどこに体重をかければいいか、重心の取り方がわかってくるので緊張が抜けてきます。

そうすると初めて膝や股関節、足首など各関節が使えてきます。

少し極端な例でしたが、こういった練習が疲労骨折予防にも必要と言えるかもしれません。

例えばバランスボールの上で膝立ちをするような練習です。

不安定なボールの上で倒れないようにするには上半身の安定が必要です。

うまく体幹のインナーが効いてバランスが取れてくると、ボールの動きに対応して股関節などが動く(≒股関節のstiffnessが落ちてくる)ことで微調整が出来てくると乗れるようになります。

頭でイメージしてもうまく体の柔らかさは出てきません。

こういった練習を取り入れてみることで身体の余計な力が抜けてくると、足をついた時の衝撃を少しでもやわらげることができ、それが疲労骨折などの重篤な障害予防につながるかもしれません。



また、紹介した論文でも研究対象を女性に限定していますが、疲労骨折の発生には性差が影響していると言われ、一般的には女性の方がリスクは高いようです。

これはホルモンなどの影響があるようです。

そのことについてはまたの機会に掘り下げていってみたいと思います!

最後になりますが、疲労骨折はなってしまったら一定期間の安静が第一です。

そのためには早期発見が欠かせません。

何かおかしいな、と思ったらまずは信頼できる整形外科でお医者さんに診てもらいましょう。

それでは、この冬もケガに気を付けてランニングを楽しんでください!

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