ランナーのためのランニング障害SOS

まつだ整形外科クリニック

タナ障害

2018年5月14日

こんにちは!埼玉県熊谷市まつだ整形外科クリニック、理学療法士の法貴です。

今回は膝の「タナ障害」についてみていきたいと思います。

スポーツ障害の現場では膝の痛みの原因としてちょくちょくみられますが、普段の生活の中で「タナ障害」という名前を聞くことは少ないかもしれませんね。

タナ障害のメカニズムとその予防、ランニングをする際に注意することをみていきましょう。



タナ障害とは

タナはそのままカタカナで書いたり漢字で「棚」と書く場合もあります。

タナとは滑膜ひだという膝関節の中にある膜のような組織の一部で、関節鏡でみたときに棚のように段がついているのがそのまま名前になったようです。

滑膜ひだは関節の中の靱帯や腱の表面を覆うようについています(軟骨・半月板は覆われていません)。

滑膜ひだは滑液と呼ばれるとろみのついた液体を分泌して、関節の動きをスムーズに保つ役割を持っています。

タナはこの滑膜ひだのうち、膝蓋骨(お皿のことです)の内側付近の部分のことを言います。

これは胎生期(赤ちゃんがお腹の中にいる時期)に膝関節内に存在していた隔壁のなごりだと言われています。

全ての人がタナがあるわけではなく、日本人では約半数に認められるとの報告が以前にされています。
タナの形によってA~Dの分類があります。

A型:索状(太いひものような形)
B型:膜状(平べったく膜のような形)
C型:幅広く、厚みがある。
D型:一部に穴が空いて、縁の一部が索状に離脱

A型やB型は炎症を起こしにくいと言われ、C型・D型のタナがある場合は何かしらのきっかけで症状が生じることが多いです。

タナ障害の症状・治療

膝を長時間曲げていたり、曲げ伸ばしをすることで膝前面の内側に痛みが生じる、といった症状が出ます。

曲げ伸ばしの際にはお皿が引っかかるようなコリっとした感覚が生じ、パキパキ音がなることも多いです。初期の段階であれば運動の休止(安静)によって軽快することもあります。

同時に治療として温熱療法や電気治療といった物理療法や筋力強化やストレッチなどの運動療法が行われることも多いです。

いきなり手術を行うのは一般的ではなく、症状が改善しない場合の最後の手段として手術があります。

治療を行っても変化がなく、日常生活上で著しい支障をきたす場合に関節鏡でタナを切除することもあります。

タナ障害とスポーツの関係

タナ障害が悪化する要因の1つとして繰り返されるストレスがあります。

ジャンプなどで膝の曲げ伸ばしを頻繁に使うスポーツの場合、滑膜ヒダが膝蓋骨と大腿骨の間で挟み込まれ、炎症を生じることで滑膜ひだが腫れ、だんだんと分厚くなってきます。

それによって挟み込みも多く生じ、曲げ伸ばしの際に痛みを伴うことがあります。

またスポーツの接触プレーで膝をぶつける・捻るといった外傷がきっかけになることもあるようです。

マラソンなどの陸上競技も膝の曲げ伸ばしを繰り返し行う競技なので、タナ障害を引き起こす種目の1つに数えられています。

ではタナがある方はどのように予防したら良いのでしょうか。次はその予防方法を考えていきましょう。

ストレッチ

大腿四頭筋という太ももの前面の筋肉を伸ばすストレッチが、簡単な予防法としては一般的です。

タナ障害は膝蓋骨の動きが邪魔されることが悪化の要因となります。

大腿四頭筋は骨盤・大腿骨から始まり膝蓋骨の上方にくっついているので、ここが硬くなることで膝蓋骨は大腿骨に押しつけられるような形になります。

大腿四頭筋が十分に伸びてくれば、膝蓋骨が押さえつけられる力も弱まり、タナが膝蓋骨に引っかかることも少なくなります。

予防のエクササイズ

ではそもそもどういったスポーツ動作で大腿四頭筋が硬くなるのでしょうか。

それはスポーツ特有の動作や姿勢にあります。

重心の位置によって大腿四頭筋にかかってくる負荷は増減します。

これが修正できればタナがあったとしても症状の出現を抑えることが可能になると考えられます。

痛めた経過や原因が異なるため、重心の位置を修正する方法はひとそれぞれ違います。

ここでは、タナがあるランナーを想定して、簡単な運動を1つ紹介します(図2)。

マラソンでは長距離を走っている間に徐々に体幹の筋肉が疲労して重心が後方に落ちやすくなってきます。

重心が後方になると大腿四頭筋が張ってきます。

張りが持続することで疲労しやすく柔軟性も減少します。

図のように足の前半分で支える(足の指を使う)ことが安定すると、重心を前方に保つ練習になり、障害予防につながります。


  

参考文献:標準整形外科学 第9版、医学書院、2005
立花陽明、変形性膝関節症の診断と治療、理学療法科学20 (3) 2005
Sakakibara J, Arthroscopic study on Iino’s band (plica synovialis mediopatellaris),J Jap Orthop Ass 50 ,1976

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