女性ランナーとホルモン
2018年5月1日
こんにちは!東京オリンピックを控え、各種目でオリンピック候補の若い選手達に注目が集まっていますね。
そういった点では、今年1月の大阪国際マラソンで初マラソンながら優勝した松田瑞生選手など、女子マラソン界でも若手選手が非常に期待されています。
最近の傾向として、若い頃に中距離などでスピードを磨き、大学などで経験を積んでからフルマラソンに挑戦する、というランナーも多いようです。
多くは若い頃に部活動などで練習をする訳ですが、この期間がその後のランナーとしての基礎を育てる大切な期間になります。
ただし女性アスリート特有の注意しなければいけない点もあります。
それはホルモンです。
今回は女性アスリートがかかえるホルモンについての問題を見ていきましょう。
女性アスリートの健康管理上の大きな問題として「女性アスリートの三兆候」と呼ばれるものがあります。
それは①利用可能エネルギー不足、②月経異常、③骨粗鬆症です。
それぞれがお互いに深く関係しており、女性ホルモンの分泌に影響しています。
いずれも負荷の高い、激しい運動を継続することが発症の誘因とされています。
利用可能エネルギー不足(Low energy availability)
以前は「摂食障害・摂取エネルギー不足」が3大兆候の1つとして上げられていましたが、2007年にアメリカスポーツ医学会によって「摂取エネルギー不足」が「利用エネルギー不足」に変わっています。
実際に摂食障害がない女性アスリートでもエネルギー不足に陥ることがあることから変更されたようです。
利用可能エネルギーはエネルギーにおいて、摂取量から消費量を引いたものになります。
このバランスが取れているかどうか、が重要になります。
【エネルギー摂取量】―【エネルギー消費量】=【利用可能エネルギー不足】
利用エネルギーがマイナスになるのはいくつかのパターンが考えられます。
例えば、摂取量の減少は食事量の不足、消費量の増大は練習によるオーバーワークなどによって引き起こされます。
利用エネルギーがマイナスの状態が長く続くことで体に悪影響が及ぼされることになります。
プロゲステロン(黄体ホルモン)など卵巣を刺激する脳からのホルモンが低下したり、骨代謝が低下したり、といったことが生じる危険性があります。
月経異常
アスリートにみられる月経異常として運動性無月経があります。
月経が3か月以上停止すると続発性無月経と言われますが、その中で運動が原因とされるものを運動性無月経と言っています。
原因としては前に挙げた利用可能エネルギー不足、精神的・身体的ストレス、体重・体脂肪の減少、ホルモン環境の変化などが考えられています。
東大病院で女性アスリート外来を担当している、能瀬さやか医師らが日本臨床スポーツ医学会誌に2014年に発表した研究があります。
能瀬医師らは国立スポーツ科学センター(JISS)で国内トップレベルの女性アスリートを対象にアンケート調査を行いました。
その結果によると、月経異常があると答えた女性アスリートは全体の40.7%にも上っていました。競技別では体操が75%で最も多く、陸上競技長距離走は全体の4位で26.0%でした。
マラソンなどの長距離走を専門とする女性トップアスリートの約4人に1人が月経異常を患っているとういことになります。
女性においてマラソンと月経異常は非常に身近な問題になっています。
骨粗しょう症
骨粗しょう症は「骨量が減少し、骨の微細構造が劣化したために、骨が脆くなり骨折しやすくなった病態」と定義されています(標準整形外科学第9版、医学書院より)。
名前はよく知られていると思いますが、高齢の方に起きる疾患だと思われていることも多いです。正確には、高齢の方が罹患するものを老人性骨粗しょう症、閉経後のホルモンバランスの崩れによって罹患するものを閉経後骨粗しょう症、とそれぞれ区別しています。
また、若い女性に起こることもあります。
京都光華女子大学の廣田孝子教授の調査では、20代の女性の骨密度を調べたところ、全体の16%強に骨密度の減少がみられたとのことです。
思春期の骨形成にとって重要な時期に、骨形成が十分に行われないと骨密度が減少するといわれています。
話をアスリートに戻すと、骨量の減少は過剰な運動負荷や月経異常などによって引き起こされるリスクがあります。
脆くなった骨は小さなストレスを蓄積させて最悪の場合骨折してしまいます。これを疲労骨折と言います。
逆にこの時期に正常な月経によりエストロゲン(卵胞ホルモン)の分泌が行われれば骨をしっかり成長させることができ、その後の競技生活の中でも疲労骨折など骨量減少によるケガのリスクを最小限に抑えることができるといえます。
いかがでしたでしょうか。
近年は女性ホルモンの問題は多く報告されるようになってきて、徐々に研究も進んできているようです。まだまだ学校などで指導する教員やトレーナーで知識が不足している場合もあると思います
。ケガを予防しパフォーマンスを上げるためだけでなく、その後の健康を維持するためにも、もっと多くの人がこの問題について知る必要があるのかもしれませんね。
また、男性でもオーバーワークによるホルモンの影響はもちろんあります。
そちらはまたの機会に詳しく紹介したいと思います。以上、熊谷市のまつだ整形外科クリニックの法貴でした!