ランナーのためのランニング障害SOS

まつだ整形外科クリニック

マラソンでの腕の振り

2017年10月2日

こんにちは、熊谷市のまつだ整形外科クリニック 理学療法士の法貴です。

10月に入りだんだんと上着が必要な気候になってきましたね。

身体を冷やすことは血流の低下、筋肉の柔軟性低下といったことにつながります。

しっかりとアップとクールダウンをして障害予防をすることが大切です。



アップとクールダウンが大切!ということで、当院では毎年熊谷で開催される熊谷さくらマラソンでブースを出して、参加選手のコンディショニングを行わせていただいています。

そこで運動前後にストレッチやマッサージなどを行っているのですが、ランニング後の参加選手はふくらはぎやふともも、腰といったところに疲労を感じている方が多くいらっしゃいます。

そういった方に混じって、首が痛い、肩が痛い、といった方も少ないですがいらっしゃいます。

足が疲れるのは当然だけど、腕や首が疲れるのはなぜ?と思う方もいらっしゃるでしょう。

おそらく、ランニング中の腕の振りが影響していることが多いと思います。

今回は腕の振りについて考えていってみましょう。

腕振りの役割

人は走っているときに腕を振ります。
歩いているときは腕を振らずに歩いているひともいますが、走る時に腕を振らない人はほぼいないでしょう。

試しに腕を組んだまま走ってみてください。
速く走ろうとすればするほどバランスが崩れる感じがすると思います。

ランニング中の腕振りの役割について、考える際にヒントとなる論文があるので1つ紹介します。

ワシントン大学のHermanらが2009年にThe Journal of Experimntal Biologyに発表した論文です。

ここでは

「受動的な腕の振りは身体の重量の緩衝装置として働いており、胴体と頭部の回旋量を減らしている。上部体幹の動きは主に下部体幹の動きによって増強されている」

としています。

Hermanらは赤外線カメラでの動作解析装置で歩行中とランニング中における腕の動きについて解析しました。

また肩の三角筋に表面筋電図を貼りつけて動作中の筋肉の活動をみました。

研究では腕を固定したとき、腕におもりをつけたとき、通常通りに走ったとき、という3パターンで歩行とランニングを解析しています。

解析結果より、腕を固定したときにランニングでは体幹上部や頭部のひねりが大きくなっているのに対し、歩行ではあまり大きな変化はないことがわかりました。

歩行から走行へと、スピードを上げるために腕の振りは重要な役割を果たしていることが推測されます。

また、骨盤と肩の位置でひねりのタイミングのずれをみると、歩行とランニングいずれでも腕を固定した方がずれが小さくなっていました。

通常の腕振りではずれが大きくなった訳ですが、ずれが大きいということは下半身からの動きが波のように上に伝わってくる、ということになります。

骨盤と肩はひねる向きが逆方向なので、腕を振ることでひねりはバネのように伝わり加速を大きくしている、とHermanは分析しています。

筋電図の波形から肩の三角筋は、腕の振りが振り子運動によって大きくなり過ぎないようブレーキとしての役割を果たしているようです。

歩行やランニング中の腕の振りは能動的ではなく受動的に生じている、とここでは言っています。

それでは、これを踏まえてマラソンでの腕の振りはどのようにしたら良いかを考えてみましょう。

走っている時の腕の振りについて

冒頭に話したような、ランニング後に首や肩まわりの筋疲労が出る方は、走っているときに肩甲骨があがっていることがあるかもしれません。

人は緊張している時に自然と肩をすくめた(肩甲骨を上げる)状態になります。

走っているときも腕・肩の力がほどよく抜けていないと、肩甲骨があがったままになり、エネルギーロスの大きなランニングフォームとなってしまいます。

当然、肩甲骨を上げておく首回りの筋肉は血流が低下して硬くなり、時には痛みにつながります。

まず基本は首・肩の力を抜いて肩甲骨の位置を下げることになります。

そうすることで腕は自由に動かせ、Hermanが言うように体幹・頭部のブレを補正して効率よく加速することができることになります。

次に腕の振る方向です。これは人によって若干の違いがあります。

要は力が程よく抜けて体幹・頭部のブレを抑えるように腕が振れればいいわけですが、その力の抜けやすい方向に個人差があるためです。

肩関節(細かく言うと肩甲上腕関節)は上腕骨が肩甲骨のポケットにはまって動くのですが、肩甲骨の向きがひとによって違いが出ます。

比較的肩甲骨のポケットが前を向いているひと、外を向いているひとなどがいます。前を向いているひとは少し腕を斜めに振った方が上腕骨は動きやすくなります(図1)。

外を向いているひとは前後方向に真っ直ぐ腕を振った方が効率はいいかもしれません(図2)。

また、Hermanが言うように腕の振りが体幹のブレを打ち消すために働いているとすると、例えば骨盤が左右で移動しやすいフォームの場合、腕も斜めの方がブレを打ち消すかもしれません。

骨盤のひねりが前後に大きいフォームでは、前後に腕を振るイメージの方が進む感じがするかもしれません。


【図1】


【図2】

後半はいずれも語尾が「しれません」になってしまいました。
これはまだ一概には言えず、その他にも足の着き方などいろいろなところから影響を受けるため、個人差が大きいからです。

ただし、これらのことをヒントにランニングフォームを考えることは新たな発見があって面白いと思います。
ランニングでの上半身の疲れを減らすだけではなく、タイムの短縮にもつながる可能性はあります。

皆さんも自分にあった腕の振りを探して、少しフォームをみてみてはいかがでしょうか。

以上、個人的には最近、腕振りの方向を斜めにしてみた理学療法士の法貴でした!

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