ランナーのためのランニング障害SOS

まつだ整形外科クリニック

骨盤周囲のランニング障害

2013年11月8日

こんにちは!
ランニング障害SOSサイト運営している市民ランナー整形外科医の松田です!
今日は風が少し強いですが快晴でランニング日和です。各地で大会が開催されていますね(^^
みなさんはいかがお過ごしですか?

今回は<骨盤周囲のランニング障害>を解説しましょう。

骨盤は骨格の中心にあって、立つ・歩く・座る等の人の基本的な動きを支えるとともに、内臓や 生殖器を守る働きがあります。

解剖学的に後ろにある仙骨と左右一対の寛骨(腸骨・恥骨・坐骨)で形成されています。

骨盤部ランニング障害の特徴

✔剥離骨折が多い
✔中学生~高校生に多い

骨盤には腹部・背部・股関節を安定させたり、動かしたりする筋の付着部が多数存在しているのが特徴で、これらが運動機能に重要な働きをしています。

そのため、付着している筋肉による張力で負荷がかかり、痛みを生じます。

まだ骨化していない成長軟骨は力学的に脆弱で、自家筋力による強力な張力に耐えられずに付着部の骨がはがれてしまいます。

これを剥離骨折といい、多くは完全に骨化していない成長軟骨が存在する中学生~高校生に見られます。

●骨盤に付着する主要な筋と付着部
・上前腸骨棘:縫工筋、大腿筋膜張筋
・下前腸骨棘:大腿直筋
・坐骨結節:半腱様筋、半膜様筋、大腿二頭筋長頭
・腸骨稜前方:内腹斜筋、外腹斜筋、中殿筋
・腸骨稜後方:広背筋、大殿筋
・恥骨上部:腹直筋

●代表的な部位と症状

1)上前腸骨棘
縫工筋と大腿筋膜張筋の起始部で、ジャンプの踏み切りや着地、ダッシュ、前方へのキック動作などで剥離骨折を起こします。

(症状)
上前腸骨棘周囲に急激な痛みが生じ、股関節屈曲動作が痛みのためにできなくなります。

腫れや疼痛も強く最も頻度が高い股関節周囲の剥離骨折です。

(治療)
安静、局所の冷却が大切です。筋肉の緊張をとるために、臥位をとるか下肢を拳上すると楽になります。

2)下前腸骨棘
上前腸骨棘と類似した動作で受傷します。大腿直筋の起始部で、深部にあるため触れることはできません。

(症状)
股関節に近い位置にあり、ほぼ股関節と同様の場所に痛みを生じます。上前腸骨棘と同様に股関節屈曲動作が痛みのために不能になります。

また、場所が深部にあるため、腫脹は目立たないことがほとんどです。

(治療)
股関節を屈曲・内旋・外旋中間位として、膝は伸展位で安静が必要です。冷却、圧迫を行って骨折部の転位や腫脹の予防が大切になってきます。

3)坐骨結節
椅子に座ったときに臀部の左右で座面にあたる骨の隆起部です。上前腸骨棘と類似した動作で受傷します。

(症状)
ほぼ股関節と同様の場所に痛みを生じます。上前腸骨棘と同様に股関節屈曲動作が痛みのために不能になります。また、場所が深部にあるため、腫脹は目立ちません。

(治療)
股関節を屈曲・内旋・外旋中間位として、膝は伸展位で安静が必要です。冷却、圧迫を行って骨折部の転位や腫脹の予防が大切です。

●診断と治療
まずはX線写真で骨折の有無や転位の程度を確認します。時に、坐骨結節のケースでは骨折が分かりにくい場合があり見逃されることも少なくありません。

骨折なのか腱損傷なのかMRIで鑑別することが重要となります。

通常、手術は必要なく、保存的治療で十分に治癒します。骨癒合も良好で多少の転位が残っても機能障害を残すことはまずありません。

一般的に骨癒合には6週間程度要し、定期的にX線所見を確認しながらトレーニングも開始していきます。

本格的な競技復帰までは3,4か月必要でしょう。

骨盤疲労骨折

いつまでたって臀部や股関節の痛みが続いているランナーには骨盤部の坐骨や恥骨の疲労骨折が疑われるので注意が必要です。

他の部位の疲労骨折と比較すると非常に稀で、全体の1-2%と報告されています。

かなり走り込みをしている実業団や学生の細見の女性ランナーに多いのが特徴です。

女性に多いのはホルモンバランスの影響で骨が脆い骨粗鬆症の状態であることが多いためです。

骨盤が広いために走ることによる過度のストレスがかかりやすいなどが考えられています。

長期にわたる鼠径部周囲の痛みや、走行や片脚立位での痛みがある際にはこの骨盤部疲労骨折を考える必要があります。

なお、早期診断にはMRIや骨シンチグラムが有用です。

骨盤周囲のランニング障害のまとめ

✔筋付着部による剥離骨折(中学生~高校生)が多い
✔保存的治療で治癒するが、復帰まで3か月ほど要する
✔頑固な鼠径部の痛み続く場合は疲労骨折も考慮する
✔MRIが診断に有効である

—-あとがき—-
月間400キロ以上走る男性市民ランナーで恥骨骨折を起こしていた患者さんがいました。

40代後半で細い典型的なランナー体型です。サブ3を達成してからさらに目標タイムをアップして練習に取り組まれていたそうです。

とてもストイックな方であると肌で感じました。かなり無理して走っていたようですね。

目標としていた大会2か月前でかなり焦りもあったそうです。しっかり治して次の目標を立てるようにお話ししました(^^

無理と焦りは禁物です(^^; ← 
私も何度も失敗していますから気持ちがよくわかります。

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