ランナーのためのランニング障害SOS

まつだ整形外科クリニック

筋疲労

2018年1月29日

こんにちは!熊谷市のまつだ整形外科クリニックの理学療法士の法貴です。

今年もインフルエンザの季節がやってきました、熊谷近辺でも今まさに流行っているようです。

この季節は気をつけていても、予防注射を打っていたとしても、どこかで菌をもらってきてかかってしまうものです。

大会を控えるランナーの皆さんには死活問題だと思うので、体調管理がよりいっそう大切です。

疲労が溜まっていることを感じたら、勇気を持って休みを挟むことも時には必要でしょう。

ところで、筋肉にももちろん休息は必要です。

負荷をかけていくことで筋は徐々に強くなり運動のパフォーマンスも上がっていきますが、適切な休息を入れないと筋に疲労が蓄積されていきます。




筋疲労は様々なランニング障害につながる要因の1つになります。

そこで今回は「筋肉の疲労」について、現在言われていることについて詳しくみていきましょう。

筋肉の収縮と弛緩

筋肉は収縮と弛緩を繰り返すことで力を発揮します。

ランニングのように反射ではなく随意収縮で足を動かす場合、まず脳からの電気信号が神経を伝わり筋肉に伝わります。

筋には筋小胞体という細胞があり、ここで神経からの信号を受け取りカルシウムイオンを放出することで筋肉が収縮をします。

反対に筋小胞体がカルシウムイオンを取り込むと筋肉は弛緩します。筋小胞体は筋を収縮させるスイッチのような働きをしているといえます。

筋肉は筋繊維の集合体で、細かく見てみるとミオシンとアクチンという2つのフィラメント(細い線維)が引きつけあったり離れたりすることで伸び縮みしています。

スイッチである筋小胞体から放出されたカルシウムイオンが、アクチンフィラメントの周りについているトロポニンに結合することでアクチンフィラメントがミオシンフィラメントに引き寄せられるように動きます。

この現象が筋肉全体で起こることで筋肉が収縮するのです。

筋疲労のメカニズム

ミオシンとアクチンがくっついたり離れたりする一連の流れをcross-bridge cycleと言いますが、cross-bridge cycleがスムーズに連続されて維持することが必要になります。

動物実験などによってアクチンとミオシンの分離が遅延する(cross-bridge cycleが途中で停滞する)と筋細胞は働きが弱まり、結果として疲労していくことがわかっています。

ではなぜcross-bridge cycleが停滞してしまうのかですが、原因として考えられているものに「無機リン酸の蓄積」があります。

ミオシンとアクチンの滑走にはATPとよばれるエネルギーの元が必要です。

ATPは分解されるとADPになりますが、このとき一緒に無機リン酸も生成されます。

この無機リン酸はカルシウムイオンの感受性を低下させることがわかっています。

カルシウムイオンは筋肉を収縮・弛緩させるスイッチの働きをもっているので、それが機能的に働かないことで筋疲労を引き起こすと考えられています。

乳酸は?

よく乳酸が筋肉に溜まると疲労する、と言われますが、その点はどうなのでしょうか。

現在は乳酸の蓄積は疲労とは関係ないとの見方が広く支持されています。

むしろ乳酸が筋肉の持続的な収縮を助けていることが実験で証明されています。

乳酸の蓄積は筋を酸性(アシドーシス)に傾けますが、これは一過性のもので1時間以内に元のレベルまで戻ります。

強度の高い運動で乳酸が多く作られることは確かですが、乳酸は疲労の原因ではなく、むしろ疲労状態から回復させるために作用しているようです。

乳酸がたまることで翌日などに筋肉痛が出る、というのも間違いといえるでしょう。

疲労を少なくする方法

ここまで細かく、聞きなれない言葉が多くややこしかったと思います。

簡単にまとめると、「エネルギーを作り出す際に出てくる副産物がたまることで疲労する」ということになります。

「じゃあどうすれば疲れにくくできるの?」となりますよね。

方法論としては様々だと思いますが、ここでは一つの論文を紹介したいと思います。

三宅ら(理学療法科学、2011)は国内外の様々な文献を検討した結果として、もっともエネルギーを効率的に使える筋収縮の方法(ここではヒラメ筋というふくらはぎの筋肉で検討)は「等張性収縮で30%MVC、かつ0.3‐1.0ヘルツの運動」としています。

等張性収縮は常に同じ負荷がかかった状態での筋収縮、30%MVCは自分で最大努力で発揮できる筋力の30%、0.3ヘルツは約3秒間に1回・1ヘルツは1秒間に1回の筋収縮となります。

ランニングに置き換えてみるとどうなるでしょうか?

等張性収縮に近づけるにはスピードを一定にして、平坦で風の抵抗もない道を走ることが必要です。

30%MVCは単純に全力の3割程度のスピードとしてみましょう。

1ヘルツ以下で走るのはだいぶ難しそうなので、ここではとりあえずゆっくりのペース、と考えてみます。

これがヒラメ筋には疲労が蓄積しない走りということになるかもしれません。

疲れずに筋への血流は維持されるので、激しい運動後のクールダウン、ケガ予防にはちょうどいいかもしれません。逆に言えばこれと遠い条件での運動は負荷が上がり筋肉はより鍛えられることになります。

あとは運動中や運動前後の栄養摂取、マッサージやストレッチなどが筋疲労に対して効果が言われています。

実際に効果が実証されているものもあれば、メカニズムが不明でも効果があるので行われているものも多々あるようです。

筋疲労については様々な研究がされていて、まだまだ今後も新たな発見がありそうです。

難しい分野ですが、その分使いこなせればより疲労をためにくい、ケガをしにくい体を作れるかもしれませんね!

最新の記事