ランナーのためのランニング障害SOS

まつだ整形外科クリニック

ハムストリングスの役割

2018年2月26日

こんにちは!埼玉県熊谷市にあるまつだ整形外科クリニック法貴です。

突然ですがランニング障害に多いのはどこの部位なのでしょう?

マラソンで考えてみましょう。

マラソンは陸上競技の中の長距離走にあたりますね。

陸上競技にもいろいろありますが、種目を問わずハムストリングスの肉離れが急性外傷としては多いと言われています。

ただしハムストリングスの損傷は短距離走や障害走、跳躍、投擲などで痛める確立が高い一方、長距離走では確立は少なくなります(表1)。

長距離走では下腿(ふくらはぎ)の筋肉またはアキレス腱などが損傷しやすいようです。

ではマラソンの怪我ではハムストリングスはあまり気にしないでいいのでしょうか?

長距離走での怪我はover use(使いすぎ)によるものが多くを占めます。

ふくらはぎの筋肉やアキレス腱の損傷は、その部位を使いすぎることで生じると言えます。

逆に、長距離走で怪我しにくく短距離走では怪我が多い部位は、走る上で必要だけど長距離走ではあまり負担がかからない筋肉と言えます。

ハムストリングスなど長距離走で負担の比較的少ない筋肉を上手に使ってあげることで、ふくらはぎの筋肉やアキレス腱の負担を軽減できるのではないでしょうか?

表1:陸上競技における障害の部位別割合

長距離 短距離 跳躍 投擲
大腿(前) 2.5 6.2 3.7 1.1
大腿(後) 4.2 26.3 16.6 10.2
膝関節 25.4 8.5 10.5 6.8
下腿 25.4 11.6 12.0 6.8

※スポーツ外傷・障害の理学診断理学療法ガイド(文光堂2003)より一部抜粋

ハムストリングスの機能

ハムストリングスは太ももの後面についている筋肉で、大腿二頭筋と半腱様筋、半膜様筋の3つの筋肉をまとめてハムストリングスと呼びます。

主な機能は膝を曲げることと股関節を伸ばすことです。

骨盤からすねの骨まである長い筋肉で、股関節と膝関節、2つの関節をまたぐことで独特かつ重要な機能を持っています。

走る際には足を後ろに蹴る力を発揮します。

大股になればなるほど、体を前傾させればさせるほどハムストリングスには大きな負荷がかかり、大きな力を発揮します。

短距離走ではストライドは広く、体は前かがみになるので、ハムストリングスを肉離れすることが多いと言われます。

瞬間的に強い力を出そうとすると傷つきやすいですが、事前に十分にストレッチなど行い、筋肉の柔軟性を保っておけば肉離れするリスクを減らすことが出来ます。

ハムストリングスの遠心性収縮

ここで、マラソンにおけるハムストリングスの役割について調べた論文を紹介します。

オーストラリアのインスブルック医科大学のKoller博士らがBritish Journal of Sports Medicineに2006年に発表した論文です。

インスブルック医科大学があるチロル州で行われた「チロルスピードマラソン」に参加した13名のランナーを対象に筋力テストを大会4日前と大会直後に行った研究です。

太もも前面の筋肉である大腿四頭筋と後面の筋肉のハムストリングスを収縮させて、その時に生じたトルクを計測して比較しました。

その結果、レース前とレース後ではピーク値は変わらず、ハムストリングスの遠心性収縮のピーク値だけはレース後に減少していたとのことです。

「遠心性収縮」とは何のことでしょう?

筋肉の収縮にはその働き方によっていくつか種類があります。

遠心性収縮は簡単に言うと筋肉が「力を入れたまま伸びる」収縮の仕方です。腕の力こぶをつくる上腕二頭筋で考えてみましょう。

肘を曲げた状態でダンベルを持つと上腕二頭筋が働きます。

そこからさらに肘を曲げていくのが求心性収縮、その場で重みに耐えながら止めるのが等尺性収縮、そこから肘を下ろしていくのが遠心性収縮です。

ランニングにおいて蹴る瞬間は、重心が前方にあり膝は伸ばしていく遠心性収縮を多用した動きになります。このときハムストリングスは力を入れたまま伸びていく形になります。

以前からトレッドミル上での実験によってハムストリングスの遠心性収縮が弱くなることは言われていましたが、トレッドミルは自動で接地面が動くため実際のレースとは異なるとも言われています。

この研究では、実際に地面の上を走っても同様の現象が起きており、「ハムストリングスの遠心性収縮の疲労は、ランニング中の膝関節と軟部組織の損傷において潜在的なリスクファクターだろう」と結論づけています。

ハムストリングスとまわりの筋肉の関係

ハムストリングスが疲労して使えなくなってくると「蹴る」動きが十分に行えなくなり、膝が十分に伸びなくなってきます。

膝が伸びないことで重心は後方に落ちて骨盤が後ろに倒れてきます。

こうした変化が膝やふくらはぎへの負荷を上げている1つの要因になります。

長距離走で膝やふくらはぎは痛めやすいけど太ももは痛めにくいのは、そもそも太ももが先に疲れてきて使えなくなってくるからかもしれません。

確かにふくらはぎのヒラメ筋などはtypeⅠの遅筋線維が多く、持久力に優れた筋肉であることが知られています。

スタミナ切れの心配が少ない分、使いすぎてアキレス腱(ヒラメ筋が付着)の炎症などにつながりやすいということもありそうです。

今回紹介した論文はオーストラリアのランナーを対象にした実験なので、日本人とは骨格が異なり、ランニングフォームも違っている点があるとは思います。

ただランニングのover useで生じる痛みに対しては参考になるはずです。

私も長距離を走っていて疲れてくると、膝が十分に伸びにくくなってきたなという感覚を頻繁に感じます。

皆さんもしっかりハムストリングスを鍛えて足首・膝の負担を軽減させてあげてください。

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